「文字を読まない」ためのキーワード
どうも、RinDaです。
今回は「セリフを読むこと」についてのお話です。
以前同じテーマで書いた記事に「セリフを読まないようにするために」という内容を書きました。宜しければ先にご覧になってください。
これについてさらにこんなツイートを先日投稿しました。
✅「読んでいる」とは?
— RinDa@声優ネット養成所 (@RinDa_0884) 2020年6月7日
「人間の生態を使っていないこと」
人は「記憶・思想・感覚」を持っています。それらの情報を統合して生まれるのが「感情」です。
演者の言葉に「記憶・思想・感覚」が欠けているなら、それは文字である😌
今回はこれについて解説していきます。
目次
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人間の生態
ちょっと難しい話になりますが、ここでは「私がなぜ「生態」という言葉を使ったのか」ということの説明があるだけなので、分からなければこの見出しは飛ばしても大丈夫だと思います。
人間とは、過去を知り、今を作り、未来を変えて生きていると私は思います。
それが人間の生態、つまり、私たちが無意識に行っていることです。
時間とは自然に流れていくもの。
それを止めることは出来ませんが、観測することは出来ます。
そして、観測できれば、範囲は限定されますがそれを操作することができます。
簡単に言うと、ある個人の過去の出来事を知ることで、ある時点での人格を特定し、未来を想像することができるということ。
これが自分自身や他人に対して即興でできる能力のある人を「メンタリスト」なんて呼んだりしますね。
それを架空の人物に行うのが「役者」であり、二次元的存在に特化した役者を「声優」と呼ぶということです。
そして、その操作を行うために必要なキーワードが「記憶」「思想」「感覚」です。
これらを理解すれば、「文字を読んでいる」というのがどういうことなのか、わかっていただけるはずです。
①記憶
記憶と性格の関係
記憶と言えば「過去」のこと。
その人物がどんな人生を歩んできたかということ。
それによって、キャラクターの性格が大きく変わってくるということは皆さんでもわかっていらっしゃる方がほとんどだと思います。
子どもの時に、犬を飼っていた人と、近所の犬に噛まれたことのある人では、犬を見た時の反応が違いますよね?
キャラクターの過去は、台本や設定を読めばある程度知ることができます。
ですが、それでは不完全なこと多いです。
台本にすべて書いてあるとは限りませんし、それを読んだ解釈が合っているかも定かではありません。
それを打破するために必要なのが、上記の記事でも触れましたが、「想像力」です。
どこまで想像するの?
ですが皆さん、ここで疑問を感じると思います。
「一体どこまで想像すればいいの?」
まさか、その人物の生涯全てを想像するのは不可能だと思います。
(自分の一昨日の夕食すら覚えていないのに)
なので、ここで最低限の基準を提示したいと思います。
あくまで、最低限です。
その基準は、「台本に出てくる単語を明確にできるまで」です。
例えば、
「今夜の夕食はシチューだった」というセリフの場合
[今夜、夕食、シチュー]の三つの単語を明確に映像として想像できればオッケーです。
「今夜」とは何があった日?季節は?天気は?
「夕食」とは何時ごろ?誰と食べた?どこで食べた?
「シチュー」とはどんな?具材は?色は?好きな味?
それでもたくさんに感じるかもしれませんが、前後の内容から推察できるものだけで、とりあえずは大丈夫です。
演じてみて足りなかったら、適宜補っていきましょう。
イメージすることの効果
先ほどの犬の例に戻りましょう。
例えば、先ほどの二人が「あ、犬だ」と言ったとします。
犬を飼っていた人は、犬を「愛玩動物」と認識しており、とてもうれしそうに言うと思います。
一方、犬に噛まれたことのある人は、犬を「猛獣」だと認識しているので、警戒心が伺える険しい言い方をすると思います。
実際に目を瞑って思い浮かべて口にしてみて下さい。
愛くるしい表情の犬を思い浮かべた時の「犬」
牙をむき出しにした犬を思い浮かべた時の「犬」
言い方が全然違いませんか?
さらに、その犬が大型犬なのか小型犬なのかでも違うと思うので、目を瞑って思い浮かべながら口にしてみて下さい。
同じ単語でも、イメージの違いで雲泥の差です。
声の演技では、この差が大きな説得力を生み出します。
そもそも、キャラクターたちはその台本に文字として書いてある物や人を、実際に見ているはずです。
それをそのキャラクターたちが想像できないなんてことはないはず。
可能な限り、キャラクターと記憶を共有しましょう。
これが「文字を読まない」ために「記憶」が必要な理由です。
②思想
人生の羅針盤
思想とは、過去の経験をもとに考えた人生の歩み方のことを指しています。
記憶と同じく「過去」から作り出されるものですが、思想はその人物の「未来」を表しています。
声優に憧れて、声優になろうとも思ってない人間が、声優になれるわけがない。
過去とは原動力となり、未来を作りだします。
この人物の人生における羅針盤(コンパス)と言えるでしょう。
「声優になりたい」などの夢や希望がそうですし、「地元で就職するんだろうなあ」などの予感もそれに入ります。
とてもざっくり言うと「目的」です。
極端に考えれば、目的のない人などいません。
「生きたい」か「死にたい」か
必ず、どちらかにいるはずです。
生きている限りは「生きたい」と思っているはずです。
そういった「目的」を探っていくことが、「文字を読まない」ために必要となります。
何が気になる?
「目的」があれば、その人物は必ず「何かを気にしている」はずです。
でなければ、目的が達成されているかどうか分からず、どう行動していいかわからないからです。
「生きたい」のであれば、「安全であるかどうか」を気にするはずですね。
「死にたい」のであれば、よくはわかりませんが、「どうやったら苦しまずに済むか」って感じなのでしょうか?
セリフにもまた「目的」があって、そのキャラクターは目的を達するために「何かを気にしている」はずです。
それがなければ、キャラクターを演じている役者もどう行動していいかわからなくなります。
きっかけがあれば行動できる
例えば、「一日一善」を思想としている人間がいたとしましょう。
彼が気にしていることは「誰か困っている人はいないか」だと思います。
そんな人が行動を起こす時は、どんな時か?
それは当然「困っている人を見つけた時」です。
困っている人が居ない限り、この人は「一日一善」を実行することができません。
なので「困っている人」を探しているはずです。
ここで出てきた「困っている人」のことを「きっかけ」と言います。
行動を起こす人間は必ず「きっかけ」を見つけた上で行動しています。
もちろん「きっかけ」の基準は人それぞれです。
朝、あなたに会って挨拶をしてくれる人は
「他人とすれ違ったこと」をきっかけにしているかもしれない。
「親しい友達を見かけた」からかもしれない。
もしかしたら「どことなく落ち込んでる様子のあなたを気遣っている」のかもしれません。
なので、そのキャラクターの思想に基づいて、役者も「きっかけ」を探さなければなりません。
「きっかけ」もなしにセリフを口にするのは、それこそ自分勝手に「セリフを読んでいるだけ」になってしまいます。
③感覚
五感と時間
ここでの感覚は、以前お話しした感覚的思考ではなく、「五感」のことです。
人間は五感を通して、「今」を感じています。
それは記憶や思想では補完できません。
五感を切り取られた人間の時間は止まってしまっていると言えるでしょう。
たとえ植物状態になっていたとしても、呼びかけることで目を覚ますことが合ったりするし、
右ひじから先を失った方が、右手首の痛みを感じるなんてこともあります。
時間の中を生きている以上、そこには感覚が生きています。
そこを無視して演じることは、キャラクターの時間を止めてしまっているのかもしれません。
きっかけは探すモノ
まず、感覚を使って何をするのかを考えていきましょう。
それは「きっかけ探し」です。
台本を読めばセリフの「きっかけ」を推測することは可能です。
ただ、ここで大事なのは「きっかけ」ではなく、「探すこと」です。
そのセリフをより読んでしまわないためには、機械的に「きっかけ」を待つのではなく、五感を使って「きっかけ」を探す必要があります。
モグラ叩きで、一体のモグラに張り付いて出てくるのを待っていても意味がありません。
ただ逆に、パンチングマシーンでGOサインの後に「きっかけ」を待つことにも意味はありませんが。
なので、演技が始まったら、キャラクターが「気にしていること」をもとに、セリフの「きっかけ」をリアルタイムで探すようにしましょう。
まとめ
- 人間は時間を生きている
→役者はそれを観測し操作する
→キーワードは「記憶・思想・感覚」- 台本から「記憶」を想像する
→基準は「セリフの単語を明確にする」
→単語に対するイメージで言い方が変化する- 「思想」とは経験を基にした人生の羅針盤
→そのために「気にすること」は何か?
→行動するためには「きっかけ」が必要- 「感覚」とは五感のこと
→時間を生きるのに五感は不可欠
→「きっかけ」は感覚的に探すモノ
今回の記事は、とても奥深く、難しい話です。
それを理解するために、私の記事だけではきっと力不足でしょう。
ですがこの記事をきっかけにして、いろんなことに気づきを感じてもらえればいいなと思います。
それこそ「きっかけ探し」。
この時間に生きてる皆さんの「感覚」が頼りです。
ではまた。
RinDa